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リスク・カウンセラー奮闘記Vol.14 洪水の脅威と水害に備えた両親の知恵  

  • リスクカウンセラー

私が洪水を初めて体験したのは昭和34年(1959年)の伊勢湾台風の時でした。
9月26日に東海地方を襲った伊勢湾台風は、最大風速45.7メートル、最高潮位4メートル近くにも達したといわれているものでした。
海岸堤防の超える高潮による被害と、河川の堤防の決壊による被害は名古屋市周辺のみならず本州を縦断により東京にも多くの被害をもたらしました。私が中学2年生の頃でした。その時、私たち一家は父が友人の連帯保証人となったことが原因で自宅を追い出され、東京の板橋区大谷口にある小さなアパートに住むことになって間もなくのことでした。

大谷口という地名のとおり、高台には大きな病院があり、その下をゆるやかに蛇行しながら流れる石神井川の周辺には、水田と野菜畑が広がり、家の近くには3軒の乳牛を飼育する牧場があるようなのどかな田園地帯でした。

子供の頃に親から良く聞かされていた「夏休みが終わり二学期が始まる頃にあたる二百十日~二百二十日には台風が多い」とされていましたが、二百十日を過ぎてやってきたのが「伊勢湾台風」でした。当時は、ラジオのニュースだけが便りでしたから、絶えずニュースに耳を傾け安普請のアパートの屋根やトタン張りの外壁が飛んでしまうのではないかと思うほどの強風の中、両親が絶えず気にしていたのが近くを流れる石神井川の水位のことでした。

父は強風と豪雨の中をランニングシャツのまま石神井川まで走って行き、30分おきぐらいに水位を確認していましたが、「とうとう石神井川の流れが土手沿いの道から溢れ出したぞ~」と飛んで帰ってきました。母親から子供たちに号令が下されました。

「子供たちは、いまのうちに便所に行っておきなさい。」
「便所を使ったら必ず蓋を被せて、蓋の上にこの石を乗せておきなさい。」
(当時のトイレは和便器の汲み取り式で、便器の穴に合わせた木製の蓋がおいてありました。)

「いまから家の中を歩くときは靴を履いて歩きなさい。」

「怪我をしないように注意しなさい。傷口はすぐに消毒して…」

「水が溢れ始めたら水位が上がるのはあっと言う間だから、今のうちに濡れて困るものは2階のお宅に預かって貰うから…」

矢継ぎ早に両親からの号令が飛んできます。それから子供たちによるリレー運びの始まりです。押入からは布団、タンスは衣類が入ったまま抽斗ごと運び…、
お米、食料、ぬかみそ漬けの樽、残されたタンス本体の上には畳を上げて積み上げていました。濡れては困るような物はおおかた運び終わった頃にはアパートの玄関の敷居の淵までヒタヒタと水が押し寄せてきていました。それから数十分のうちに洪水は押入の中段の高さギリギリにまで達していて、ほんとうにあっと言う間に水位が上昇して
アパートの前に置いてあった3間ほどの長さの大きな梁がフカフカと浮いているのです。5~6本の梁は子供たちの格好の遊び場でしたが、普段はビクともしないような大きな材木がいとも簡単に浮いてしまうことに驚きと興味をもって見ていました。窓際に流れてきた大きな梁にまたがり、トムソーヤ気分になって竹竿を櫂にして遊んでいたら「この水はどんなバイ菌がいるか分からないのだからすぐに止めなさい…」母親にひどく怒られたことを思い出します。

台風一過の復旧作業の手際の良さは…

ひどかった雨が小康状態になった頃、自衛隊が組み立て式の大きなボートに救援物資を乗せて運んできてくれました。
チクチクするようなカーキ色の毛布と乾パンが配られたことを覚えています。

台風が過ぎ去り少し落ち着いた頃、大きい子供達にはホウキと、いつ作ったのか篠竹を束ねたホウキの代用品が手渡され、再び号令が下されました。
「いいか…、この水は泥水だから、水が引くときに一気に泥水を外に掃き出さないと後が大変だからね…」
親と一緒に泥水を外に掃き出し、親がトイレの清掃を始めたときになってようやく、和便器に蓋をして石の重しを乗せたわけが分かりました。台風一過の数日後、床が乾くのを待って畳を敷き直し、家具を元の位置に戻し再びいつもの生活に戻りましたが、土壁は流れ落ちているのが、台風の傷跡をいつまでも残していました。何人かの友人の家は、1階の天井までスッポリ水に浸かってしまい気の毒なことになっていましたが、

「自分の家でなかったのも幸いだったね…」と母親が言っていた言葉が、今でも耳に残っています。

近年でも、東京の目黒川や神田川が氾濫したりして大騒ぎになっている光景をニュースなどで目にしますが、
もっと自然の摂理を学んでいれば、住宅や工場、事務所などの建築にも災害に備えた建物を造るという考えが生まれてくるはずなのに…。

「川の水は必ず氾濫することがあり得る」ことを知っていれば、万一のリスクにも備えることが出来るはずです。

「水は方円の器に従う」ということばのとおり、水は必ずしも上流から流れてくると限らないことと、どんな小さな隙間にも入り込んでいきますから、いくら優れたIT機器も水の威力には適わないことを知っておくべきだと痛感しています。

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