朝の9時半の約束だったのに、なんと1時間も前から事務所の前に着いて私の出社を待っていたという老夫婦。今日もまた問題を抱えた80歳前後の老夫婦が肩を丸め悲痛な表情で相談に来られた。
土地の借地権の問題だった。そもそも先週末のことだという。男性3人がやってきて、「この土地は、私が買ったので来年の2月末までに明け渡してほしい…」と突然云われたのだというのだ。何故なんだ。この土地は、私が兄から貰った土地なのに…。何故?何故なの?3日間というもの何も喉を通らない日が続いて今日の日が来たのだという。
特にこのようなパニック状態で混乱しているような場合は、話を余り急いで聴き出さないでたっぷり時間をかけることにしている。
老夫婦の話は昭和29年3月に遡って、両親のこと、兄弟のこと、連れあいと結婚したこと…から始まる。詳細は省くが、今年の春に亡くなった兄が、自分たちが今住んでいる土地を私たちにあげると書いてある書類にまで書いてくれているし、建物だって自分たちでお金を払って立てたのだし…と建築確認の書類を広げて見せてくれた。
生前、兄が老夫婦に土地をあげると書いた書類だといって見せてくれた。どう見ても、私にはその場を取り繕うように書いた「メモ書き」としか思えない文章だ。昭和60年頃に書いたもので、地番もなければ住所の表示もない。実兄が目の前で自ら書いたものだからキッチリ約束してくれたと信じていたし、登記のことなど何も考えていなかった…と云うのだ。それと、ずいぶん前に地代を払おうとしたら、あげたんだから地代なんか払わなくっていいよ!と云われ。だから地代はまったく払っていなかったというのだ。兄が重病で入院した時には付き切りで看病したりした後だったので、本人達はなんの躊躇いもなく素直に喜んでその土地を貰ったというのだが…。
その実兄が死んだ。そして相続が発生した。自分たちが住んでいる土地の外に200坪余の土地が隣接している。相続税を払うために周辺の画地のすべてを売却したと云うことで、その土地の買受人が挨拶に来たようだ。あまりにも社会を知らなすぎる。兄弟の言葉を信じすぎる。法的な権利関係の手続きをなにもしていない。純粋だ。純真だ。でも社会に通用しないことばかりだし、どうしたらこの老夫婦を守ってあげられるだろうか。
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